この照らす日月の下は……
04
ラクスの母は《歌姫》なのだという。今回は月でコンサートをするために来たそうだ。
「もちろん、聞きに来てくれるわよね?」
彼女はカリダにそう問いかけている。
「そうしたいのは山々だけど……キラを一人でお留守番させるわけにはいかないし……」
「なら、ラクスと一緒に楽屋にいればいいわ」
「いいのかしら」
カリダがそう言いながら彼女を見つめた。
「えぇ。私もその方が安心できるし、ラクスも寂しくないでしょう?」
言葉と共に彼女は視線を自分の娘へと向ける。
「はい」
ラクスは微笑みながらそう言った。
「キラにお歌を歌って差し上げますわ」
さらに彼女はそう付け加える。
「お歌?」
「えぇ。キラ。お母様ほどではありませんが、わたくしも歌は好きです」
はにかんだような笑みを浮かべるラクスにキラも笑い返す。
「……僕も、好き……」
小さな声でキラはそう告げる。
「なら、一緒に歌いましょうか? わたくしが教えて差し上げますわ。代わりにキラが知っているお歌を教えてくださいな」
そう言われて小さくうなずく。だが、自分が好きな歌をラクスも気に入ってくれるかどうかがわからないのが少しだけ不安だ。
「あらあら。もうすっかり仲良しね」
カリダがそう言って微笑む。
「来てくれるかしら?」
「ハルマに聞いてみるわ。今度の金曜日でしょう?」
多分大丈夫だと思うけど、とカリダは続ける。
「何なら、ご主人もご一緒に招待するわ」
「そこまでしてもらうのは悪いわ。あなたの歌を聴きたい方は多いんだから」
「大丈夫よ。そのくらいのわがままは聞いてもらえるもの」
そこまで言われては断りにくかったのか。それとも、最初からハルマにも聞かせたいと思っていたのか。
「それも聞いてみるわね」
カリダはそう言う。
「是非、そうして」
彼女はそう言うと花が咲くような柔らかな笑みを浮かべる。
「楽しみだわ。気持ちよく歌えそう」
「それはこちらのセリフかも」
母も嬉しそうな表情で言葉を返す。そんな彼女たちの表情にキラも嬉しくなった。
もちろん、ハルマもこの提案に『喜んで』と言ってうなずいた。
「ラクスのお母さんって、どんなお歌を歌うの?」
キラはカリダにそう問いかける。
「とてもきれいなお歌よ」
そう言いながら彼女はオーディオを操作し始めた。
「聞いてみればわかるわ」
スイッチを入れた瞬間、柔らかな声が室内を満たす。それはカリダが歌ってくれる子守歌のように暖かく、だが、誰が聞いても美しいと言える旋律だった。
それを耳にしたキラはただ圧倒される。
「……ママ……」
なんと言えばいいのかわからずに母を見上げた。
「すごいでしょう? きれいとかすてきとかと超えたところに彼女の歌はあるの」
それがわかるだけでもキラはママの子ね、と言うと同時にカリダはキラの身体を抱き上げる。
「ラクスちゃんも同じようにきれいな声をしているそうよ」
視線を合わせると彼女はそう教えてくれた。
「すごいね」
素直にキラは言葉を口にする。
「えぇ。本当にね」
カリダが同意してくれたことが嬉しい。同じくらい母と同じ気持ちになれたことが嬉しいと思うキラだった。